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第30話 釣り合わない愛のゆく先

last update Dernière mise à jour: 2025-11-27 18:54:56

 チーム戦を控えた選手専用控室の奥、誰もいない一角に魔導式の結界が張られていた。

 外の喧騒は遮断され、静寂の中でいくつもの魔導陣が淡く光っている。

「……ハル先輩とレオン先輩の共鳴強度、異常に高いね。過去最高。

 これは……本当に確かめがいがありそうだよ、ユリウス兄さん」

 ユーノが魔導晶を覗き込んで笑う。まるで遊戯の準備でもしているような、無邪気な口ぶりだった。

「問題は……ふたりの感情偏差。値が大きいと、術式の負荷が一方だけに偏る」

 ユリウスが淡々と答える。その指先は魔導式の再調整を続けていた。

「それってつまり──愛の偏りが激しいってことでしょ? ふたりの感情が釣り合っていなければ、兄上だけがさらされる」

 ユーノはそこで一度、言葉を切った。

「ねえ、可哀想だよね? 愛されていない側だけが、公衆の面前でそれで──本当に感じちゃうんだから」

「……それでいい」

 椅子に座ったまま、ルカがぽつりと呟いた。

「兄上があの男を好きなのは、わかってる。

 でも……ハル=アマネがどれだけ返しているのかは、まだ誰も知らない」

 指先がわずかに震え、握る拳に熱が宿る。

「兄上が一方的に捧げ
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